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創刊1924年(大正13年)、通巻1000号を超えた鶏の専門誌!
AIが再発したベトナム国内のアヒルへの感染が深刻

京都産業大学鳥インフルエンザ研究センター
鳥取大学農学部付属鳥由来人獣共通感染症疫学研究センター
大槻公一


5.最近JRA施設で発生した馬インフルエンザについて

 つい最近、複数のJRA施設で馬インフルエンザが発生した。馬インフルエンザ自体一般的にはなじみが薄く、鳥インフルエンザの問題がなければあまり大きなインパクトを国民に与えることなく、メディアにも注目されなかったであろう。連日のようにメディアにとりあげられていたので、参考までに解説したい。
 馬インフルエンザは馬インフルエンザウイルス感染によって引き起こされる馬の発熱を伴う急性呼吸器病である。この馬インフルエンザウイルスが人などのほ乳類や鶏、アヒルなどの鳥類に感染する可能性は極めて低い。
 馬は呼吸器の細胞に鳥インフルエンザウイルスに感染しやすい受容体を持っていることが知られている。したがって、馬は人インフルエンザウイルスには感染を受けにくく、逆に、鳥インフルエンザウイルスに容易に感染することが分かっている。しかし、馬の正常体温は通常のほ乳類と同じ36~37℃であり、鳥類に比べはるかに低い体温である。その結果、馬インフルエンザウイルスは41~42℃が正常体温である鶏等鳥類の体内では、温度が高すぎて増殖できない。その結果、馬インフルエンザウイルスは他の種類の動物にはほとんど感染できないのではないかと考えられている(図1)。
 今回の馬インフルエンザは馬2型と呼ばれるもので、原因ウイルスの亜型はH3N8である。このウイルスは、現在北米、ヨーロッパなどに広く分布している。日本国内で飼育されているすべての競走馬は馬インフルエンザワクチンの接種を定期的に受けている。したがって、なぜ、ワクチン接種を受けている多くの馬に広範囲に馬インフルエンザの発生があったのか不思議である。
 近い将来、今回ウイルス陽性馬から分離されたウイルスの性状の詳細は報告されると思われるが、なぜ今回発生があったのか、考えられる可能性をあげてみたい。先ず、このウイルスが、競馬に関係する物件に付着して国外から持ち込まれた可能性がある。しかも、そのウイルスに抗原変異が起きており、国内の競走馬はワクチンを接種されていたにもかかわらず、発病を防ぐことができなかったのではないか。最もあり得る可能性であるが、ごく短い期間に、国内で複数の施設で発生した事実を説明するには若干無理がある。次の可能性も考えておく必要がある。
 一般的に広く使われているインフルエンザワクチンは、馬も含め不活化ワクチンである。不活化ワクチンのワクチン効果として認識されていることは、感染防止ではなく発病防止あるいは発病程度の軽減である。ワクチン接種を受けた馬は、野外の馬インフルエンザウイルスの侵襲を受けた場合、そのウイルスの感染を防ぐことはできず、体内でのウイルスの若干の増殖はあったが、典型的な馬インフルエンザの臨床症状の発現には至らなかった。そのため、関係施設には馬インフルエンザウイルスが分布し続けているにもかかわらず競走馬関係の関係者は気づいていなかった。より感度の高い診断技術ができたために、馬インフルエンザウイルスの感染があったことが判明した。1971年の大きな発生とは異なる様相を呈した。この可能性も考えられる。いずれにしても、JRAからは何らかの報告があるであろう。
(続きは11月号に掲載)